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横浜地方裁判所川崎支部 昭和36年(ヲ)446号 判決

申立人 金子久治

相手方(第四四六号事件) 川崎精密機械工業協同組合 (第四四七号事件) 三葉工業株式会社 (第四四八号事件) 川崎市信用保証協会

主文

申立人らの本件各申立を却下する。

申立費用はいずれも申立人らの負担とする。

理由

一、本件申立の要旨は

(一)  相手方川崎精密機械工業協同組合は申立外有限会社加藤製作所に対する横浜地方裁判所昭和三五年(ワ)第二五六号事件の執行力ある判決正本に基き相手方三葉工業株式会社は同人に対する横浜地方裁判所川崎支部昭和三五年(ワ)第一三七号事件の執行力ある判決正本に基き相手方川崎市信用保証協会は同人に対する横浜地方裁判所川崎支部昭和三五年前第二六号事件の執行力ある判決正本に基き、いずれも横浜地方裁判所川崎支部執行吏金子末吉に委任し、昭和三六年六月二四日川崎市塚越三丁目四〇〇番地申立人経営の金子鉄工所において別紙目録記載の物件(以下本件物件という)に対しそれぞれ差押をなした。

(二)  右物件は申立人が占有使用しているものであつて、申立外会社とは関係はない。目録記載四の物件は申立外中西商会から申立人が昭和三三年七月頃買受けたものであり、その余の物件は同じ頃申立外盛[イ黄]から買受けたものである。尤も盛から買受けた物件はもと加藤製作所の所有に属し、加藤製作所が盛に譲渡したものであるがとにかく加藤製作所のものではない。

(三)  民事訴訟法第五六七条によれば第三者の占有中にある物の差押は、その第三者が物の提出を拒まざる場合に限りこれをなすことができると規定し、こゝに「物の提出を拒まざる」とは占有者が明らかに提出を拒みたる場合のほか明示又は黙示にて承諾の意思を表示すること能わざる場合たとえば差押に際しその物の占有者が不在なりし場合も含むと解すべきところ、本件物件の差押の行われた際物件の占有者たる申立人は不在中で申立人の従業員数名が作業中であつたに過ぎず、勿論従業員が申立人に代つて承諾した事実もない。

従つて、このように提出を拒否する能わざる状態において執行吏のなした本件物件の差押はこの点の処置において違法がある。

(四)  なお、執行吏は相手方川崎市信用保証協会の委任に基き本件物件につき前記差押をなすと同時に川崎精密機械工業協同組合、三葉工業株式会社の委任に基き本件物件に差押をなしたがこれは民訴第五八六条に違反し違法である。

(五)  よつて本件物件につきなされた前記各差押手続の取消を求めるため本件各申立に及ぶ。

と、いうにある。

二、よつて判断すると本件記録中の有体動産差押調書によると申立人主張のとおりの相手方らは有限会社加藤製作所に対する判決の執行力ある正本に基いて横浜地方裁判所川崎支部執行吏金子末吉に強制執行を委任し、同執行吏は有限会社加藤製作所に対する強制執行として、申立人主張の日に川崎市塚越三丁目四〇〇番地金子鉄工所内において本件物件を差押えたことが認められる。

ところで、本件記録によると、申立外商工組合中央金庫は有限会社加藤製作所に対し昭和三三年八月二二日横浜地方裁判所昭和三三年(ヨ)第五一六号有体動産仮差押決定を得、同月二七日同人は横浜地方裁判所執行吏に委任して本件物件について仮差押の執行をなした。執行吏は当時債務者が横浜市鶴見区矢向町三五四番地において占有中の本件物件を差押えた上、これを債務者代表者加藤晴久の保管に任せた。その後昭和三三年一二月二日申立人から執行吏に対し仮差押中の本件物件を川崎市塚越三丁目四〇〇番地(申立人経営の工場がある。)に保管替をなし保管中である趣旨の保管替申請書と題する届出が提出された。相手方川崎精密機械工業協同組合は有限会社加藤製作所に対する横浜地方裁判所昭和三五年(ヨ)第一四四号有体動産仮差押決定に基いて横浜地方裁判所執行吏に執行を委任し、同執行吏は昭和三五年三月二三日本件物件につき既に仮差押に係る物件として照査手続をなした。相手方川崎市信用保証協会は商工組合中央金庫に対し有限会社加藤製作所の同金庫に対する債務につき保証債務を負うていたところ、相手方は同金庫の請求により昭和三三年一二月二七日有限会社加藤製作所の債務につき代位弁済をなした。

以上の事実を認めることができる。

右事実によるとまず、相手方川崎市信用保証協会は商工組合中央金庫が仮差押中の物件について、仮差押執行後の仮差押債権者の承継人として本件執行委任をしたものと認められ、相手方川崎市信用保証協会も既に同人が仮差押の執行をなした物件について本執行をなしたものであり、相手方三葉工業株式会社は他の債権者が仮差押をなしている物件について差押をなしたものである。

ところで、本件は、仮差押の執行により債務者占有中の本件各物件を執行吏が占有し、さらにこれを債務者の保管に任じたところ、債務者が、物件の保管を第三者たる申立人方に移し第三者が右物件を保管するに至つたものであるが、かゝる場合もその第三者たる申立人から前記認定のとおりの書面が執行吏に提出されているときは、申立人は債務者の機関として物件を保管しているもので、執行吏は依然右物件の占有を有するものと解するほかはない。相手方は前記保管替申請書が偽造である旨主張するが執行吏は執行当事者あるいは利害関係人から提出される書面の真否を審査する権限はないから、この書面が偽造であることを以つて、執行吏のとつた処置の違法を主張をすることはできない。

然るときは本件各差押はこの仮差押の執行として執行吏が既に占有中の物件についてなされたものであるから、執行吏は改めて民事訴訟法五六六条、五六七条の手続を要さず、爾後執行吏は本執行として占有するに過ぎない。この関係は相手方三名いづれの差押をとりあげてみても仮差押中の物件に対する強制執行という点では同一の手続をとるべきものと解せられる。

従つて、本件差押において民訴第五六七条の手続をとるべきことを前提とする申立人の主張は理由なきことは明らかである。

また本件物件が申立人の所有するものである旨の主張は、実体上の異議として第三者異議の訴によるべきであつて執行方法の異議の理由とすることはできないから、この点に関する申立人の主張も理由なきことは明らかである。

また、二重差押の主張について考えると第三者がかゝる事由を以つて異議の事由となすことの当否はおくも債務者の有体動産につき多数の債権者のため同時に差押をなしうることは民訴第五九三条二項に照し明らかであり、執行吏が同一債務者に対し数人の債権者から同時に強制執行の委任をうけたときはこれを併合して執行すべきものである(大正六年三月二八日民事第五一三号法務局長回答参照)から、本件記録により、相手方らは同一債務者たる有限会社加藤製作所に同時に執行の委任をなしたことが認められる本件においては、民訴第五八六条違反ではないからこの点に関する申立人の主張も理由のないことは明らかである。

以上要するに、申立人の相手方らに対する各申立は理由がないから、いずれもこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 野田愛子)

物件目録

一、弐拾四吋セーパー附属付明電社製 一台

二、研磨機(グラインダー) 一台

三、モーター直結卓上ボール盤 一台

四、十二吋ボール盤般若鉄工製 一台

五、ミーリング岡崎機械製作所 一台

六、英米式六尺旋盤附属付 一台

七、米式四尺五寸旋盤 株式会社森竜三商店製 一台

(附属付)

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